
日本山岳環境を意識したトレッキングポールシェルター「ZERO1 Pro」の開発背景について、ZEROGRAMを創設し現在はブランドディレクター兼テント開発スーパーバイザーであるWoodyにインタビューしました。

ZEROGRAM創業者 Woody。
現在はブランドディレクター兼テント開発スーパーバイザー。
主なアウトドアスタイルはウルトラライト・
ハイキング(軽量ハイキング)、時々ロッククライミング。
特にロングトレイルハイクに強い興味があり、
世界各国のロングトレイルを歩いている。
Q.ZEROGRAMを創設したきっかけは?
「大学時代から登山活動を続ける中で、常に新しいギアへの好奇心が旺盛でした。完璧ではないギアを使いながら「自分で作ってみたらどうだろう?」という思いが徐々に芽生えていた頃、2011年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル(John Muir Trail)350kmを踏破しました。この時の経験が強いインスピレーションとなり、ハイカーがストレスフリーで前に進められるギアを提供したいとZEROGRAMをスタートしました」
アメリカのMount Whitneyに向かう途中。
ロングトレイルPCT(Pacific Crest Trail)とJMT(John Muir Trail)が
重複する区間の近郊に位置する。
Q.ギア開発で大切にしていることは?
「大事にしていることの1つはロングハイクでの経験。すべてのZEROGRAMギアはロングハイクでの経験がベースです。ストーリーの核心は軽量化です。この軽量化は、いわゆるトレンドや重量だけではありません。ハイカーにとって軽量化は大事ですが、ZEROGRAMのコンセプトが"Go Light Get More"であるように、軽量化してどんな価値が生まれるかが大事です。
もう1つは、ギア開発のコンセプトをなるべくシンプルにすること。あれこれ盛り込みたくなりますが、そぎ落とすことで開発途中での判断がぶれないよう心掛けています。」
Q.ZERO1のはじまりは?
「"Go Light Get More"というコンセプトの延長線から生まれました。ソロハイカーがよりフットワーク軽く進めるシェルターとして考えた時に、当時のソロシェルターには前室がなかったり、出入口が1つしかなく不便でした。そのためZERO1は最初から出入口2か所、そして悪天候時にバックパックや登山靴を保管するための前室も必須に感が増した。しかしすべて盛り込んだ結果、最初のプロトタイプは800gを超えてしまいました。その後、生地を変更したり、フロント出入口はメッシュのみにしたり、1gでも減るより良い副資材を探し続けたり、5回にわたるサンプル作業を経て、ようやく最初のバージョンができました」
ZERO1 ファーストモデルの発売は2015年末
(日本では2016年初に発売)。
2016年「ZERO1 Pathfinder」、2018年「ZERO1 MF」と進化。
Q.ZERO1 PROのコンセプトは?
「今回は最初から日本ユーザーのために作ることが決まっていました。日本の山岳環境を考慮した時に耐風性と結露の課題がネックと考え、"Beyond Trekking Pole Shelter"をコンセプトにテントのような居住性と安定性を目指しました。
シェルター本体にも改善を施し耐風性や結露課題は改善されていますが、革新的な変化は1本のアウターフレーム(専用ポール)の追加です。これによって、オリジナルバージョンの弱点だった強風への対応や、雨や朝の結露の重みで内部空間が狭くなる不便さが大幅に解決できました。」
写真は「ZERO1 Pro」2回目のプロトタイプ
Q.アウターフレームのインスピレーションはどこから?
「以前、フレームのないシェルターでロングハイクした時、悪天候の度に苦労しました。しっかりとした木があればガイラインを括り付けて固定できましたが、もし自立できるアウターフレームがあればと強く思いました。
それから長い間、悪天候でも安定するアウターフレームを構想してきました。 もともとZER01は耐風性を高めるオーバーハング構造※です。今回の専用ポールは斜めにつきますが、オーバーハング構造をさらに高める取付角度を計算しました。
あとZERO1は天井部の角度が鋭角なので、ポールを無理に曲げて耐久性が落ちないようハブを採用しました。このハブの位置は出入口の斜めの方向とバランスを取るように配置されており、朝の結露によって狭くなる内部空間を広げる効果を高めています。またハブがあることで設営撤収が楽にもなります。
今回採用したアウターフレーム(専用ポール)は、DAC Feather NFLで、最軽量ながら高い耐久性が特長です。ZERO1 Proのアウターフレームは(一般的なテントと異なり)1本だからコンパクト、持ち運びも楽です。」
※ZERO1本体はオーバーハング構造で、前室と本体とのラインを前斜めにカットしています。それに合わせフロント側のトレッキングポールも斜めに設置することで両側から強いテンションがかかる仕組み。今回の専用ポール(アウターフレーム)はそれを強化する設計。
Q.耐風性はどうでしたか?
「フィールドテストでも高い耐風性を確信していましたが、DAC社での耐風テストでは想定以上の数値が出ました。フレームを付けた時と本体のみと両方を行い、本体のみでも風速30m越えることができました。
今回、アウターフレーム追加、本体の生地を厚くするなど、前バージョンより重量が増え悩みました。当初の予定よりフロアサイズを削ったり、優先順位が低いとした機能を削るなど最低限の増加を心掛けましたが、それでもこの増加で得られるメリットの方が大きいと判断しました。」
DAC社での耐風テストの様子
ZERO1 Pro 耐風テストでの DAC社CEO(Jake Lah)とWoody
Q.ZERO1 Proを持って行きたい日本の山は?
「日本でも色々な山を登りましたが、北アルプス最高峰が一番印象に残っています。ZEROGRAMの日本デビューが決まった時に日本スタッフと歩いたルートで、ZERO1 Proで縦走したいですね。
日本の皆さまにZERO1 Proを使っていただき、使いづらい点や改善点などがあれば、ぜひフィードバックをお寄せください。開発に積極的に反映します。ありがとうございました。」
2018年 北アルプス 唐松岳にて。
写真は「ZERO1 Pathfinder」。